映画『サイレントヒル』

◆2006年 ◆監督=クリストフ・ガンズ 
■導入■
 タイトルが出る前に、『サイレントヒル1』のOPの曲がちょこっと流れて、まずそれでドキドキした。プレイした人に一瞬で原作を思い出させる憎い演出だなあ。導入のエピソードで娘シャロンを抱きしめる母ローズと父クリス。この図を見てちょっとジーンとしてしまった。ゲームでは1〜3のどれも両親や夫婦は片方しかいなかったから、3人家族という形がすごくいい。シャロンは色白の美少女。ウェーブのかかった長い髪がかわいらしい。ローズはなんだかとても母親らしく見える。クリスは、役者のショーン・ビーンがボロミアのイメージ強いので、今回の短髪がすごく新鮮だった。
 サイレントヒルへ行く経緯に必然性を持たせているのが非常に上手いと思う。また、シビルがサイレントヒルへ行くきっかけも納得がいく。アメリカでは児童遺棄や誘拐を徹底して警戒するから。この導入部分のエピソードは原作よりも優れているのではと思った。
■サイレントヒル■
 いよいよサイレントヒルの霧の中へ。町並みを見たときに、うわあホントにサイレントヒルだ、と感動した。本物だった。色褪せた町並みが霧に覆われ、しいんとしている。道路の車線が真っ直ぐ伸びて霧の中に消える。そして(静かに降り積もっていく雪……じゃなくて灰!ここが面白いアレンジだった。30年前の火災を上手く結びつけた演出だと思う)。公式HPを見た時から、かなり原作の雰囲気が忠実に再現されていると思ったけど、映画の美術は想像以上だった。
 すごかったのが裏世界。なにがすごいって、その再現度の高さが。監督、どれだけサイヒル好きなんですか…!あの赤黒く錆付いた建物、金網だらけの部屋。(変な褐色の死体がぶら下がっていた)ところまで忠実に再現してくれて…!ゲームではハリーは何もコメントしてくれなかったけど、ローズはちゃんと怯えてくれました(笑)。映画ならではの映像が見られて大満足。とくに感動したのは(表世界から裏世界への変貌の描写)。おそらく当時のゲームでやるには技術が足りなかっただろう。CG万歳。(あの金網は、壁や仕切りの塗装が全部錆びて剥がれて、あんなふうになったんだ!すごい納得)。  ふとした画面のアングルが、ゲームの画面を思い出させて、ジーンと感動してしまう。これはもう上手く説明できないので、ぜひ映画観て下さい。
 とある掲示板で、ローズの外見についての考察(意図的にヘザーに似せている?)を読んで、もしこれが本当だったらすごい!と思った。監督のサイヒル愛が半端じゃなさ過ぎる。
■クリーチャー■
 普通ホラーでクリーチャーが出てくれば怖いはずなのに、サイヒルではもちろん怖いんだけど同時に嬉しくなってしまう。あっ、ライイングフィギュアだ!パペットナースだ!って。怖かったり嬉しかったりファンは忙しいです(笑)。パンフレットを読んで驚いた。(クリーチャーは、画像加工してあるものの、出来る限り人間を使っているらしい。どうりでナースがやけにナイスバディだと思ったよ(笑)。ダンサーだって)。 登場からして別格なレッドピラミッドさま(△頭)。あの大鉈(剣?)、切れ味良すぎです!しかも状況がまたスリル満点でたまらなかった。(二人とも部屋の壁ギリギリに張り付いているのに、刃が今にも届きそうで、観ているこっちも椅子に背中を押し付けて仰け反ってしまった)。△頭もムキムキないい体してた。
■父親の存在■
 ローズの夫クリスは、出てくる度に何となく「ハリー頑張れ」と心の中で思ってしまう(笑)。もちろん役割的にはハリーとは違うんだけど、雰囲気が結構似ている。もしくは似せている?このクリスを加え、娘を助けようとする親を二人にすることによって、映画独自のアレンジが出来た。サイヒルの表世界、裏世界、そして(平行している現実世界)の存在は、すでにゲームを熟知しているファンにも新たな緊張感を持たせてくれた。(同じ場所にいながらすれ違うことしか出来ず、クリスが微かに気付くシーンはドキドキした。)
■逃げる戦闘■
 ゲームではその性質上、当然敵を倒して進んでいくけど、映画ではそうはいかない。ローズはあくまで逃げ惑い、クリーチャーに対して攻撃的になる事はない。武器はシビルの拳銃と警棒だけ。ローズのナイフも、アイテムとして使っただけで、すぐ落としてしまう。鉄パイプは!?と思ったけど、普通はあんなクリーチャーに立ち向かっていけないし、一般人がショットガンやらライフルやら扱えるわけはない。そこは映画らしくリアリティがあった。  病院の地下での(ナースだらけの通り道は、スリル満点!緊張した!力ではなく、娘への愛情と度胸で切り抜けていくのが、とても母親らしい。光への反応を利用するのも、ゲームシステムを忠実に再現していて嬉しかった)。
■巻き込まれた警官■
 シビルは警官らしく毅然としていてかっこいい。原作よりも髪が短く、タフな印象が強くなっている。(対ライイングフィギュアで、毒を吐きかけられ、駄目になったメットとジャケットを脱ぎ捨てた時に、初めて原作と同じ格好になるという演出が良かった!やっぱりファンとしては嬉しい)。シビルが言った一言(「子供にとって母親は神と同じ。」)は映画『サイレントヒル』のテーマとも言える。ドキッとするほど強烈に印象に残った。(いくら母親が人間だろうと何だろうと、子供にとってはどうしても神になってしまうのだ。だって母親が全てだから。うん、肝に銘じておきます(笑)。
■あの教団■
 ゲームよりも登場人物が増えたお陰で、あの教団の狂信の恐ろしさがより詳しく描写されていた。ダリアの設定が少し変わっていて、(ゲームではアレッサにまったく救いがなかったけど、映画ではまだ母親の愛情があったということになっていた)。この設定変更は良かったと思う。クリスタベラは、外見がごく平凡なおばさん故に、その狂信の度合いが引き立つ。上手いキャスティングだった。  そしてゲームよりもシビアになっていた点について。(もう、シビルの最期を思い出す度にすごい落ち込んでしまう…(泣)。もしあそこで助かったら、映画として甘くなってしまうのは理解できるんだけど、でも落ち込む。ああああ、助かっちゃ駄目ですか。報われないよ…。ものすごいへこんだ。映画終わった後、数時間は引き摺っていました)。
 教会でのクライマックスシーン。(ローズを介してアレッサを教会に引き込むアイデアが面白い。)ゲームでのラストバトルに相当するシーンのため、凄まじかった!この映画はR12ではなく、PG12(12歳以下は親同伴で)らしいけど、親が同伴したってどうフォローしたらいいか分からないよ、これは!(あの鉄条網が痛そうで痛そうで、観ている方も身を竦めてしまう。)  そしてここでローズが娘を助けるために、(敵に対して最初で最期の攻撃をする。クリーチャーよりも、狂信的な人間の方が余程恐ろしいということだろうか。考えさせられるものがあった)。
■霧■
 そして最後のシーン。(すれ違い、決して交差しない現実とサイレントヒル。ついゲームと同じようにgood+のエンディングを期待していた自分が甘かった。ゲームでは頑張ってプレイしたご褒美としてgood+があるんだろうけど、映画ではそうもいかない。アレッサが復讐を遂げようと、ローズが娘を取り戻そうと、そんな事とは何の関係もなく、サイレントヒルの霧は厳然と世界を遮っている。  観た時は、えっ、せっかく頑張ったのにと思ったが、時間が経つにつれ、サイレントヒルらしい終わり方だと思えるようになった。最後のシーンを思い返す度に、霧の深さを思い知る)。  

 観終わった後、クリストフ・ガンズ監督に感謝した。サイレントヒルの町や裏世界を忠実に再現し、原作を大事にしつつ映画独自のアレンジを加えるなど、ゲームの映画化という難しい仕事を見事にこなしてくれたと思う。後でパンフレットを読んで、監督自身が『サイレントヒル』の熱狂的なファンというのを知ったけど、もう映画を観ている最中から、サイヒル好きがヒシヒシと伝わってきたので、特に驚く事もなかった(笑)。サイヒルのファンが監督を務めてくれたという幸運に大感謝。ちなみにガンズ監督は私の好きな『ジェヴォーダンの獣』も撮っています。


ゲームレビューに戻る   絵置き場に戻る
inserted by FC2 system