怖がり泣き虫探偵の奮闘

雨格子の館

◆2007年 ◆推理アドベンチャー
◆制作=日本一ソフトウェア
◆ストーリー=森の中で迷子になった主人公和(なごむ)は、豪雨の中で偶然洋館に辿り着く。中に入ろうとすると死体を発見(踏んづけた)。その直後に背後から殴られ昏倒させられる。屋敷の中で意識を取り戻した和は、謎の脚本家『帽子屋』によって集められた無名の俳優達8人と出会う。
■推理もののゲームは探せば結構あるのかもしれないけど、サウンドノベルではなく自分で調べるタイプのアドベンチャーはなかなか少ないのではないでしょうか。私は推理アドベンチャーは『クロス探偵物語』(ものすごく昔!)以来なので、発売前から楽しみにしていました。とりあえず初回は攻略を見ずにプレイ。 ■洋館に8人+主人公が集まり、連続殺人が幕を開ける。不謹慎だけどぞくぞくするシチュエーション!主人公の使命は『犯人の特定、アリバイ崩し』は当然のこと、『被害者の予測』『事前に殺害防止工作』『徹夜で護衛』など今までの推理ものにはなかった要素があります。そう、殺人は阻止できる!この探偵は誰か殺されてから謎を解くだけではないのです。
■ストーリーが進むと自由行動期間になり、捜査開始!人と話したり調べたりして犯人や事件につながる『キーワード』を入手し、それを元に更に聞き込み。調べるのは自分でポインタを動かす。ああ〜捜査してるって感じ!『クロス〜』以来だわ。サウンドノベルの推理ものも好きだけど、やっぱり自分であちこち調べるのは楽しいです。ただし行動するときっちり時間が消費され、時間切れになるとストーリー部分へ移行。それまでに殺害防止工作が間に合わないと・・・! ■私は初回プレイではまず『被害者の予測』をどうやればいいか分からず、手当たり次第にポインタ捜査したり、的外れな『キーワード』ばかりで聞き込みしたおかげで時間を浪費し、なすすべもなく一人また一人と殺され・・・。いやー、心底「ダメな探偵でごめんなさい!」(土下座)って気持ちになりました。だって防げるんだもの。ストーリー上仕方のない殺人は最初の一人だけ。後の人は全て生き残ることができる。この設定はかなりプレイヤーを必死にさせます。
■主人公というのはプレイヤーと同じ目線で事件を追う役割があるため、常識と良識を持ち合わせたニュートラルなキャラになることが多い。けどこのゲームの主人公『一柳和』はニュートラルと言うには少々個性的で、プレイヤー側とはまた少し外れた位置にあり、そこが面白かった!『不運』『巻き込まれ体質』は当然のスキル(?)として、『お人よし』そして『超怖がり』。死体発見の度にパニック。殺人阻止に奔走する理由も『怖いから』。和曰く「わからないまま放っておくともっと怖くなるじゃないか。」犯人を見つけたらどうするかというと「怖いから止めてください、とか・・・。」なんか新鮮だ・・・!常識的なのに感性がちょっとずれてる(笑)。 ■もう一つの今までにない個性は『泣き虫』。童顔で(よく周りから成人年齢であるのを忘れられる)ちょっと幼くお人よしな性格のためか、涙もろい。知り合って間もない他人が殺されて「ひどいよ」と泣き、犯人の話聞いて感情移入で泣く。この他人の痛みでボロボロ泣く主人公はこのゲームの大きな特徴の一つだと思う。会話を聞いていると、家族や周囲から弄られつつも可愛がられてそのまま大きくなったんだろうなあという想像ができる。温室育ちゆえに人に優しくするのが当たり前。私はこの主人公大好きです。
■主人公以外の登場人物は全員『役者』。謎の脚本家『帽子屋』によって集められ、小説に出てくる役名を付けられた無名の俳優達です。時代劇の斬られ役やまだ若い端役、舞台中心の知名度の低い女優など、テレビに少しは出ているけど名前はクレジットに出るほどでもない。ここらへんの設定が妙に現実的で面白かった。テレビでよく見る芸能人だけが俳優ではなく、名前も知らない役者達が演劇やドラマを支えている。これはまたずいぶん渋いところを持ってくるなあと感心しました。そして(この俳優達の世界が事件の発端とも言えるのです)。 ■えー私は初回プレイで全ての工程を失敗して華々しくゲームオーバー(笑)。まだコツを掴んでいなかったせいもあるけど、一番の原因は誰も疑えなかったから。勘でもいいから誰か疑えばもう少し何か見抜けたんだろうけど、みんないい人だから疑えないんだーー!!聞き込みすればするほど疑いたくなくなる。この中に犯人いるのを忘れてしまう。それは会話によってものすごく丁寧に人物描写がされているからだと思います。 ■推理ものとしては今までにない斬新なシステム『被害者予測』『殺人阻止』。これが可能な理由は、犯人が作家『高遠延二郎』の小説に見立て、小道具による予告をしてからその晩に殺害するという予告殺人だから。何故わざわざそんなことを・・・と思うけど、これにはちゃんと重要かつ実用的な意味があるのです。予告見立て殺人が決してゲームのシステム上の都合だけではないところに感心しました。
☆初回プレイ 二日目(到着日の翌日)
■さて初回プレイは全ての殺人阻止失敗という結果に終わりました(笑)。私なりに頑張ったんですけどね。まず到着日を一日目として、二日目に死体発見。これは不可抗力。そしてもうその晩の被害者(標的)を予測できるんだけど、私は予測の仕方が分からず、従って防ぎ方も分からず。そこらじゅうをポインタ捜査したり、他の人達と雑談してあっという間に時間を使ってしまい・・・。ごめんね、でも初回だからしょうがないよ!と必死に言い訳。でも初回だろうとできる人はできるんだろうなあ。
☆三日目
■捜査中に予測の仕方が判明!日織(サポート役)に(予告に使われた小道具)のキーワードを聞いて、その小道具が出てくる小説を教えてもらい、それを調べると狙われる人(役名)が判ります。そして(見立てに使われる小道具を隠し、標的となる人に上手く警告し、その晩護衛)すれば阻止成功。よし、それじゃ急いで小道具を探すぞー!…(10個も探さなければ)ならなかったため時間切れ…。阻止失敗時の和の反応にものすごく心が痛みました。(和はただ優しいだけでなく、他の人なら目を逸らして済ませるような人の悪意を、真面目に受け止めて悲しんでしまう性格なのかもしれない。
☆四日目
■もう要領が分かったからできるはず。さくっと防ぐぞー!時間に余裕を持って行動し、四日目にして初めて阻止成功ー!・・・と思っていたのです、この時は。そしてしばらく、いや、初回プレイが終わるまで失敗に気付きませんでした。この『四日目』はかなり特殊で、(失敗に気付く(遺体発見)にもポインタ捜査の手順が必要)だったのです。でもこれはかなりスタッフさんの意図的な引っ掛けが入っているのでは?私が迂闊というのを差し引いても!プレイされた方、引っ掛かりましたか?
☆五日目
■よーし昨日と同じ手順で今日もさくっと阻止…と思ったらヒントがもらえない。なんで?教えてもらえないとさっぱり見当がつかないよ(泣)。見立て小説もわからず標的もわからないので防ぎようがない。しかも私は(本来は五日目の標的である人を四日目の標的と勘違いし、昨日防いだと思い込んでいた)。なのでまさか五日目で殺されるなんて思いつくはずがない!何も対策がとれないまま、むざむざと…。悲鳴を聞いて標的が誰か判った私の驚愕といったらもう・・・。昨日じゃなかったの!?じゃ昨日は誰だったんだ!?)って。
☆六日目
■ここらへんになってくると、さすがに人数が減ってきます。主人公を除いて残り3人。もう誰が犯人で誰が標的かわかりそうなもんだけど、私はまだわかりませんでした。(四日目の遺体を見つけていなかったので、部屋に引き篭もっているだけかと思い、その人も結構疑っていたのです)。なんとか予測を立てて護衛し、阻止成功!あー、やっと成功したか…。しかしもう七日目の朝。一体これからどうなるのか。ここから怒涛の展開が待っておりましたよ。怖かったーー!!
☆七日目
■怖いと思ったのは、ずっと序盤から恐れていたことが本当になったらどうしよう!という理由からです。(だってこれだけ親切にされて裏切られたらすごいショックだよ…。立ち直れないよ…)。でもあからさまに怪しいよな、ちょっと安直かな、意図的にそういう演出されてるし、と思ったところへ(あの人の証言とパソコン画面で、ええええ嘘だろうちょっと待ってーー!!とすんごい焦りました。制作側にあっさり踊らされましたよふふふ。
☆二周目プレイ
■こうして華麗にゲームオーバーした後、すぐ二周目へ。もう失敗しない!全員守るぜー!手順は分かってるし、初回で無駄に調べまくったので道具の場所もさほど探さなくても分かる。よーし完璧!阻止成功!うわー…まさか成功するとこんなご褒美があったなんて…知らなかったよ。(一回目失敗してごめんよ椿。まさかメガネ無し顔見せてくれるとは思わなかった(笑))。どうやら完璧に殺害阻止できるとご褒美(特殊な一枚絵)があるらしい。二周目は3枚ほど見れました。やっぱり助けられると嬉しい。
■さて、防ぐばかりではなく反撃(犯人と動機の解明)もしなければいけません。犯人は、まあ初回であれだけ人数減ったのでさすがに分かったのですが、動機にはまだ掠りもしていません。『キーワード』がとにかく膨大な量なので、総当りで聞いてはとても時間が足りず、真相には辿り着けない。けど少し的を絞って聞き込みをしたら、徐々に重要な『キーワード』が出てきて、それを使って更に聞き込み。その人個人には些細なことでも、それを総合して聞いているこちら側にはどんどん繋がりが見えてくる。核心に迫っていく過程は本当にドキドキしました。 ■なんとか事件に関係しそうなキーワードを使って話を聞きださないと真相に迫ることができない。けどその他の関係ないキーワードでも実に様々な話が聞けます。それが楽しくてしょうがない!その人の性格や考え方、育ちや食べ物の好み、喫煙飲酒のスタンス、演劇に対する姿勢、他の人への印象など本当に細かく描写されている。色々聞きたくなってそれに時間を費やしてしまいます(笑)。でも一周目はまだ詳しく聞けませんでした。どんどん人が減っていくから・・・(泣)。他の人に関してはまた詳しい人物紹介を書きます。みんな好きだー!
■二周目の結果は、全員生き残って犯人も突き止めたけど、あと一歩足りずにAランク。完璧なグッドEDを見たのは三周目、更にそれから色々なパターン(二日目成功させて三日目失敗、五日目で違うほうを成功あるいは失敗させるなど)を試したり、ED後にもらえる手紙を全員分見ようとしたり、もう何周プレイしたか分かりません。それでもまだ手紙は2人見てないし、キーワードも全部聞いていない。まだまだプレイを楽しめる自信あり。ふつう推理ものは真相がわかってしまえばそう何度もプレイする気にはなれないのですが、このゲームはやり込み心を刺激するのに非常に成功していると思います。 ■事件解明のためにもう一つしなければいけないのが『アリバイ崩し』。犯人の嘘を見抜き、証言の矛盾を指摘できないと、グッドEDに辿り着けません。私は二周目でもこれが分からず、攻略サイトに頼ってしまいました。初回はもっと分からなかった。だって7人が色々な時間にバラバラに動いてるし、まだ犯人の見当もついてないから疑いだすときりがない。タイムチャートを自分で修正するのは、分かった後なら簡単だけど、何も知らない時に見るとすごく難しそうに見えました。 ■聞き込みで一番「おおっ!」と思ったのは、(暗石さんからキーワード『白夜』を引き出した時。初めて事件の真相に近づけてすっごい興奮した!あと御陵さんにある質問をして、彼女にしては珍しい答えを聞いたとき。日織の本名判明も)。そして「ええええ!?」と思ったのは(『帽子屋』の正体判明。いやあ、これはもう意外としか…!あとは双子の静奈鈴奈の秘密。絶対わかんないって!
☆全体感想
■プレイを思いきりエンジョイするのはいつものことなのですが、今回は本当に燃えました。初回で失敗しまくって誰も助けられず、「うわああごめんーー!」と人が減っていく恐怖やら不甲斐なさを味わい、二周目でがんばってみんな守りきって「生きてるって素晴らしーー!」とガッツポーズ。かなり理想的なプレイだったのではないでしょうか。そしてそんな風に一生懸命になれたのは、登場人物たちの性格がとても丁寧に描き込まれていて、好きになれたから。しかし一度助けることができると、次のプレイで色々なパターンを見るために見殺しにするのがめちゃくちゃ心苦しいという難点もあります(笑)。
■もうひとつ、殺人を阻止できるというこのゲームには、他にはないジレンマがあります。それは『阻止すると探偵の活躍がなくなる』ということ。いや、もちろん阻止は探偵の実力あればこそだし、後手に廻って謎解きするよりは防いだほうが現実的にはずっといいんだけど、でも殺人が起きた後のアリバイ崩しやトリック破りもなかなか見応えあるんですよ・・・。普段気弱で流されやすいのに、犯人の嘘や矛盾を見逃さない和の指摘もかっこいいし。何周かしてどちらも見たくなる。上手いなスタッフさん。 ■事件の真相を解き明かし、犯人を突き止めるだけなら、和以外の『探偵役』にも可能でしょう。でも犯人に反省を促し自首させるのは、和でなければきっと無理だったはず。相手が痛ければ自分も痛くて泣くような優しさは、お人よしと言えばそれまでかもしれない。けどそれが誰かの救いになることもある。こんなに泣いて事件解決した探偵はいないだろうなあ(笑)。このゲームをクリアして、ものすごく「続編希望ー!!」と思いました。幸いなことにこのレビューを書き始める前に続編が決定して嬉しい限りです。泣き虫探偵の活躍を楽しみにしています!


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