惨劇真っ最中! 九怨−kuon− ◆2004年 ◆アクションホラー ◆制作=フロムソフトウェア
◆ストーリー=平安時代、藤原頼近の屋敷では原因不明の病が蔓延し、亡霊や餓鬼が彷徨う。民間の陰陽師、蘆屋道満の元に屋敷の怪異の調査が依頼され、弟子の咲耶は兄弟子達と共に屋敷を訪れる。一方、屋敷近くの神社に住む姉妹が、父を探しに屋敷を訪れていた。しかし、怪しげな唄に惹かれて姉は姿を消し、妹の浮月は一人で屋敷を彷徨う。 ■和風ホラーということで、『零〜紅い蝶〜』と比較する人も多いでしょう。パッケージに紅い着物があったり、姉が失踪したりするので尚更。私は似ているからこそ相違点を探すのが楽しかったです。難易度の選択に「簡単」があって良かった!おかげでアクション下手でもクリアできます。アイテム無しで体力回復も出来るのも有難い(数秒時間がかかる)。
■『零〜』との違い。それは舞台が惨劇真っ最中であること。『零〜』の舞台は惨劇から何十年も経っている設定なので、建物は朽ち、血痕らしきものは茶色く変色している。「ここで何があったのだろう」と想像するしかない。しかし『九怨』は違う!床に広がる鮮明な血痕、まだ新しい死体、誰かが戸をガタガタ揺する音、障子の向こう側を彷徨う影。まだ惨劇は終わっていない。来るんじゃなかった、こんな屋敷!! ■『九怨』の背景で一番特徴的なのは、やはり血痕。まだ鮮烈な赤で、乾いていない。ので血溜まりを通るとしばらく赤い足跡が続きます。細かい演出に感心。上から死体や餓鬼が降ってきたり、さっきまでそこにあった死体が、引き摺られたような跡を残して消えている。跡を辿っていったら、酷い目に遭いました…。プレイする前は、『零』シリーズより怖いことはないかと思っていたら、十分すぎるほど怖いです。いつでもコントローラ握り潰す勢いで臨戦態勢。
『陽の章』の主人公咲耶は、喋り方が凛としていて、兄弟子達よりもよっぽど男前(笑)。『陰の章』の主人公浮月は、儚げな美少女といった雰囲気。神社から外に出たことがなく、世間から隔絶されている。 そして姉の暮葉は、病弱で優しいんだけど、やっぱり姉としては失踪しなければならないらしい(笑)。途中のムービーで(明らかに人外のものになってしまい(いや、最初から?)、もう探すの止めようよ浮月と何度も思った。) ■戦闘は呪符や打撃による攻撃が主。咲耶は扇で、浮月は小刀。両方ともリーチが短く、かなり接近しないと攻撃が当たらない。攻撃のタイミングが合わせづらく、最初のうちは結構ダメージを受けました。そのうち慣れて、最初は呪符を飛ばし、近づいて打撃、最後はトドメ攻撃。そう、『零』との違いはトドメ攻撃があるところ。浮月は小刀で真上から突き下ろし、咲耶は踏みつける。素足で。咲耶が最強だと思いました。
■背景について。平安時代の屋敷が舞台ということで、『零』に出てくる屋敷とはまた違った魅力と怖さがあります。渡り廊下が多くて庭に面している部分が多い。木陰から何かが出てきそう。画面が切り替わると視点も変わり、斜め下から見上げるような、変に意味ありげな構図になると、何か出てくるんじゃないかと思ってものすごくドキドキしました。所々に置いてある葛篭(つづら)を開けるのも怖くてしょうがない(泣)。でも開けないとアイテムが…。 ■私は『陰の章』からプレイしてしまったのですが、『陽の章』を先にやった方が解りやすかったかもしれません。そこがちょっと残念!『陰の章』で謎というか裏の事情が明かされるような感じだったので、それを先に見てしまって「どういうこと!?」と仰天してしまったのです。(だから浮月が途中でどうなったか、実はよく理解してないかもしれない。なんか…姉様入ってる?でも何とか自分を取り戻せたってことなんだろうか。) ■ムービーでキャラの口が動かず腹話術状態、と事前に聞いていたので、驚かずにすみました(笑)。声優さんの演技力のお陰で、十分に感情が表現されていて、CGの荒さはあまり気にならず。序盤のムービーで、餓鬼に襲われそうになった浮月を助けた咲耶がやけにかっこいい。同じ女の子なのに、浮月を心配して「私が守ってやれたら良いのだが」と男前なことを言ってくれる。浮月もうっかり「咲耶…さま」と呼んでしまってるよ!でも気持ちは解る(笑)。
■『九怨』で私が一番好きだったのは、咲耶と浮月がお互いを思い遣っているところ。二人ともまったくの初対面で、一緒にいた時間はほんの僅か。それなのに、咲耶は当然のように浮月に手を差し伸べ、その身の上を哀れむ。浮月はそんな咲耶を慕い、最後まで心の拠り所にする。短いあっという間に築かれた二人の関係が何とも不思議で、良かった。
■セーブの方法は形代舟という紙の船を小川に流し、自分の穢れを払うというもの。平安時代らしい優雅さがあります。屋敷の各部分の名称も『寝殿』『東の対』『西の渡殿』『随身所』など、馴染みのない名称が新鮮で面白かった。 死者が蘇る話はよくあるが、その方法が『九怨』の場合は何とも変わっている。(不思議な蚕と一緒に、繭の代わりに葛篭(つづら)に入る。この蓋の付いた葛篭に自分から入る図というのが、ぞっとする。)思いついたスタッフはすごい。私は何とも言えない特異な不気味さを感じました。 ■『陽』『陰』両方の章をクリアすると、『九怨の章』がプレイできます。この怪異事件を解決するのは咲耶でも浮月でもなかった!(今まで色々な人の書付で名前だけ出てきていた安部晴明(女性)が登場。彼女を操作してラスボスと対決するのです。まさかまったくの第三者が最後に来るとは。しかし、元はといえば、道満が彼女の才能に嫉妬し、外法を使って対抗しようとしたのが原因。トドメを刺すのは清明が適任か。)
■『九怨の章』では槍が振り回せて満足。いや、さすがにお強い。(また晴明の立ち振る舞いがクールでかっこいい!何をするにも余裕がある。外法に手を出した道満を鼻で笑い、桑の木の双子もあっさり封印。咲耶の必死の頼みを、一応覚えておこう程度に引き受ける。冷たいわけではないんだけど、簡単に感情移入はしない冷静さがある。そして最後にちょっと優しい。) ■好きなシーンやセリフ。(浮月と咲耶の再会。「そなたを救う術、必ず!」)もう咲耶かっこよすぎるよ!お前がヒーローだよ。『九怨』に出てくる男性陣はみんな悉く頼りない(笑)。浮月のセリフ(『九怨の章』の繭の道で晴明と会い、傍らの式神を「ある方から頂いた」と言うところ)。たぶん同年代だろうけど、咲耶をさま付けで呼び、完全に自分より上の人として尊敬している様子。そこが好き。何というか、奥ゆかしい?(笑) ■クライマックス。咲耶の必死さに心を打たれた。『九怨』は全体的にドロドロした人間の感情が多いと思う。(暮葉の憎悪、道満の傲慢さや嫉妬、屋敷の人達のどうにもならない絶望。)そんな中で咲耶の必死な優しさにすごく救われる。あと、咲耶の声優さんの演技にも感動した。CGのレベルが全然気にならない。
ホラーでこんなエンディングが見られるとは予想していなかった。(まさかこんなに救いがあるとは!!ちっちゃい浮月が可愛くて、彼女に話しかける咲耶が優しくて幸せそうで、私にとってはもうご褒美だった。見る人によっては、都合がいいと思うかもしれないけど、いいじゃないかハッピーエンド万歳! 今まで淋しかった人と、頑張った人には、ちゃんと救いがあったのだ。ああ、ほんと、浮月が可愛いんですけど…。もう二人で末永く幸せに暮らすがいいよ(笑)。)


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