副題に『受難』が付いて涙目な探偵

奈落の城
〜一柳和、二度目の受難〜

◆2008年 ◆推理アドベンチャー ◆制作=日本一ソフトウェア
◆ストーリー=主人公の和(なごむ)は友人の日織に誘われ、ヨーロッパの小国貴族の城を訪れる。特殊な立地にある城には様々な呪いの伝承があり、怖がりの和が卒倒しそうな材料には事欠かない。全員が集まった談話室で突然停電が起こり、不気味な声が響く。「怨念が強くなってきておる…。」  翌日から不可解な怪奇現象が続き、ついに過去の忌まわしい体験を思い出させるような事件が起きる。 ■本格推理アドベンチャー『雨格子の館』の第二弾。『一柳和、二度目の受難』という副題が付いてめでたくシリーズ化。前作がすごく楽しめたので今回もわくわくどきどきしながらプレイしました。もう推理の仕方とかプレイのノウハウは多少分かってるし、日織というワトスン役(助手)もいるし、最初からバリバリ行くぜー!と息巻いていました。ええ、調子こいてました(笑)。ところが…。
■登場人物達との会話で好感度をいい感じに上げ、キーワードも結構集まり、来ました最初の事件。でもまだ殺人ではないんだなあ。しかしアリバイ表はしっかり出てきたので慌ててメモ。今回はどういう日程で進むんだろう。一日一殺ではなさそう。予告がないので五里霧中。キーワードでの聞き込みもまだまだ当てずっぽう。もう少し事件が起きないと方向性が分からない。さて二つ目の事件。え……うわ……や・ら・れ・たぁ!! ■『雨格子の館』ではある疑惑があってプレイを進めるほど疑心暗鬼になっていったんだけど、今回はそれがなく安心しきっていました。しかしその『続編の油断』を突かれた!今回はつつがなく助手を務めてくれると思っていた日織が二日目で失踪!えええ、お前、手伝ってくれるんじゃないの!?前作あまりに親切すぎてお前何企んでるんだと恐怖し、今回はもうその心配はないんだー♪と頼る気満々だったのに!)前作をプレイしたからこその油断と動揺だった…。
■プレイを進めていくと、実は前作と色々な違いがあり、一筋縄では推理できないことが判明。まず前作は殺人阻止できてもできなくても日が過ぎていったけど、今作はフラグを立てないと先へ進めずバッドエンド。アイテムを発見したり、質問に上手く答えないと二日目くらいでおしまい。このバッドを見た感想、「夢オチかあぁぁあ!!」。そして2つ目のバッドは「悪夢かぁぁああ!!」。怖かった…(泣)。すっごい怖気づいた。バッドを見て消去法で犯人が分かるかというとそうでもない。なんか今回難しい! ■必要なフラグを立てるためのヒントがちょっと少ないので(私が気づかないだけ?)、攻略サイトでヒントをもらって再挑戦。前作は実は親切設計だったんだなあとしみじみ思いました。まず最初に犯人の意図がバーンと提示され、予告と見立てというパターン化されたシステムで行動と推理がしやすかった。今回は事件発生から捜査、推理、殺人阻止までどれも変則的で予測しにくい。捜査のヒントが少なく、城の中を探検するつもりでまんべんなく調べないとクリアに繋がらない。もーちょっとヒントを!
■前回のやりやすい捜査というのは裏を返せば難易度が低いとも言える。今回は2作目ということで難易度上げられちゃったのかも。そして今回のストーリーが2作目にして『変化球』であることが、推理の難易度を更に上げている。事件や現象が起きれば起きるほど、それぞれがちぐはぐな印象で犯人の目的が分からなくなる。前作の事件はまだ正常な人間の感情が感じられたけど今回は違う。動機なんてないのではないかと思うほど、起きる事象が不可解。まるで呪いの城に相応しく人間外のものが陰で動いているよう。 ■全てが解明されるグッドEDを見るには一度のプレイでは無理。大きく分けて3種類のルートがあり、システム的に初回プレイは『クリアしてもかえって謎がわんさか提示されるルート』しかできない。2周目からは『事件は解決できるけど犯人を追い詰めるまではいかないルート』がプレイ可能。それをクリアすると『真相解明、犯人の絞め上げもバッチリ!ルート』が出現する。3周しないとグッドEDに辿り着けないのが大変だけど、どのルートも展開や会話が微妙に違うし、ルート独自のイベントやCGもあるのでなかなか楽しめます。 キャラクターについて。またしても全然疑えないような良い人達ばっかりなんですけど!前回も良い人達ばっかりであてずっぽうにさえ疑えず、お陰で推理が難航したけど、今回もそう。シチュエーションがそもそも今回は迷い込んだわけではないし、日織を通して招待されたから他の人達も初対面とはいえ身元はしっかりしている。キーワードで聞き込みすればするほど、面白いながらも気持ちの良い人達ばかりでますます疑いたくなくなる。でもそれは私が単純だから疑えないとか、そういう問題でもなかった。(だってこの中に、いや会話をしている相手の中に犯人はいなかった。いたとしてもそれはあるキーワード会話の中で一瞬だった。
■私はバッド2回経験したあとザック→三笠→真相ルートでいきました。そしてしばらくした後レビューを書こうとしたけど、やっぱり全部やっておまけノベルも見たい!と思い立って、ティーロ→教授→クレアという順でプレイ。初回クリアの時は攻略見て死体を出さずに進めたので、それ以降はわざと殺人阻止しないで和にばっかり死体発見させる方向で…。ごめん。すっごいごめんと思った。でも堪能した(酷)。 ■真相に至るまでの推理会話にはかなりの数の選択肢があり、全部間違えずにいくにはよっぽどしっかり真相を把握してないと無理!しかも今回は『変化球』。普通の推理は当てはまらない。復讐だの営利目的だのでやってくれればまだ推理しやすいけど、そんなものからポーンと遠く外れた動機なんだもの。)しかしそこを推理させる今回のシナリオは冒険だったけど面白かった。前回の恐怖とは質の違う不気味さを感じさせてくれた。 ■ちゃんと殺人阻止する和もいいんだけど、死体発見してはショックを受ける和もやっぱり見たいもの。今回も泣いたり気絶したり大変でした。また被害者もいい人ばっかりだから余計心が痛んでしょうがない。周りの反応もなかなかつらい。(三笠が死んだ時のクレアが印象的。この人が取り乱さないのは医者としての習性が染み付いてるからか。和に小声で「私の分まで。」と言うのが切ない。つらいことがあればあるほど気丈に振舞う千絵子もかわいい。あと失踪中なくせに密かに和を支えた日織を見てまた「こんのやろう」と思った(笑)。
■そして犯人と対峙。怖がり泣き虫探偵は今回どうだったか。和は強かった。得体の知れないものに恐怖し、他人の痛みに泣きまくるけど、それは弱さということでは全くないということがよく分かった。あまりにも異質で異様な犯人の強気な態度にも、和は気弱にならず揺らぐ事がなかった。何でもない時には流されやすいけど、いざという時は絶対退かない。かっこよかった!そして(日織。ここで来なかったら助手失格!次回も何かしら騙されそうで油断できない。もう本当に失踪しても心配してやらないからな! ■あとはやっぱり(某王子。あれだけ周囲が真相を知らせないように気を使っていたけど、当の本人は強かった。というより耐えたんだろうな。そして悪魔の人格を撥ね退けたのは執事の最期の抵抗だった。『執事』という性質の人格だったから、あれだけ主の命令が効いたんだろう。
■真相に関してもう少し突っ込んだ感想。超ネタバレ注意。推理もの好きな人にとって今回の真相はどうだったかな。多重人格はアンフェア!って人もいるんだろうなあ。)⇒
■⇒(私は2作目の『変化球』としてかなり楽しめたし、そこに至る過程も綿密に構成されていて結構感心した。突飛な偶然ではなく、誰の意図も関係なく、些細な事が積み重なってやがて引き金が引かれ爆発する。多重人格自体、珍しくはあるけど異常なものではない。あまりにもつらい経験に耐えられない時、別の人格を作ってそれに肩代わりさせるというのは、誰にでも備わっている防衛機制の一種。そう本で読んだ事があるので、そんなにズルイとは思わなかったなあ。あと結構推理作家は誰でも一度は多重人格もの書いてるし(笑)
■さて今回のお城はと言うと……前回の館と同じように崩壊しようとしたよ(笑)。迷宮付きの時点でもう崩壊する気満々だよ。ちなみに暗号やパズルは攻略に頼りました。ごめん、ちょっと時間がなくてじっくり解くのは無理…。次回はどんな舞台になるんだろうか。絶海の孤島(迷宮付き)とか、隔絶された村(迷宮付き)とか、日織が温泉とか言ってたから鄙びた温泉宿(迷宮付き)とかどうだろう。この『迷宮付き』もめでたくシリーズ化だな。 ■印象深いシーン。二日目のある事件が発生してから、和が捜査に行く前に呟くセリフ「泣いてる場合じゃないんだよな」。お前やっぱりまた泣いてたかー!もー泣き虫探偵なんだから。で、その一件が解決した時、(日織〜!こんのやろう!!ってすっごく思った(笑))。泣いてロボコンパンチくらいしてやれ!って思ったけど、怒らないのが和なんだよなあ。すごく、らしい。事件でもないのに「怖ーっ!」って思ったシーンは(三笠の正面顔!すんごい不意打ちだった。この人にはいつもテストされてるようで緊張する(汗)。 ■千絵子から前回キャラの名前が聞けるのが嬉しいところ。(成瀬はやっぱりイケメンの部類に入るんだなあ。前回の無名からちょっと名前が知られるようになって嬉しい。千絵子の好みは磯前さんか。いい趣味してる(笑)そして前回から引き続き、事件に関係ないのに何故か出てくる名前。成瀬公康って、そのうち本人出てくるのかな。それとも姿は見せずにシリーズ皆勤賞?謎だ〜。)事件に関するキーワードで聞き込みしなきゃいけないんだけど、ついつい他のキーワードも試してみたくなってどれだけ時間を使ったことか。やっぱり楽しいなー。キャラの性格付けが半端じゃなく細かい。
■事件と関係ないかなと思ったキーワードでものすごくドキッとした会話が。(真相ルートやった後にこの会話見たので、「あ…お前、今…替わっ…!?」って。こ、怖かったー!!)■各キャラについてはまた人物紹介でくどくどと語ります。一番好きなのは、みんな好きなんだけどやっぱりアルかな。 ■総括。捜査が最初のうちはちょっと五里霧中なところが多かったかな。でも現実的に考えれば、捜査と言うのはそういうものかもしれない。ほいほいヒントが出てきてくれるものでもないんだろうなあ。前回の『律儀に予告』に慣れてたせいかも。かといって前回と同じシステムにしたらワンパターンに感じていただろう。今回はまた新しい気持ちで楽しめた。 ■事件の真相や動機も前回とまったく違ってて面白かった!そしてやっぱり根底には人の愛情や弱さや強さがあった。今回のシナリオも好き!。次回作そろそろ出てくれませんかね。続編作れそうな謎(高遠の遺作が行方不明とか、事件や真相とは関係ないのに唐突に出てきたドプナー男爵、二作続いて名前が出た成瀬公康とか)が本編にちらっと出てましたけど(笑)。いつまでも待てますので、よろしくお願いします日本一ソフトウェアさん!



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