だって暗号解かないと館が崩れるから 『氷の墓標』 一柳和、3度目の受難  ◆2010年 ◆ジャンル=推理アドベンチャー ◆制作=日本一ソフトウェア 
ストーリー=前回の事件から数ヵ月後、伯爵アルノルトからの招待を受け、和と日織は当主が亡くなって間もないシェードレ男爵邸を訪れる。不在のアルからの伝言で湖の真ん中に建つ別館へ案内されると、そこには三人の相続候補達がいた。やがてアル本人からの電話が…。「どうして離れの方にいるんだい?」誰が何の為に和たちを別館へ呼び寄せたのか。やがて唯一の交通手段と連絡手段が失われる。一人を除いて誰も知らないタイムリミットは三日間―――。
一柳和の受難シリーズ第三弾。前回まではPS2で出ていましたが、今回はSPです。さてシリーズ三作目ともなると、今までの傾向などを踏まえて色々と警戒しているわけですよ。もう騙されないぜ、どうせ今回も暗号出るんだろ、地下迷宮スタンバッてるんだろ、澄ました顔して崩壊する気満々なんだろ!って(笑)。そう身構えているのは超巻き込まれ型不運の主人公も同じだったようです…。 ■今回初めてイージーモードを使用。会話の中で重要な情報が出てくると音で知らせたり、キーワードが重要度によって色分けされていたり、チェックできる箇所でカーソルが黄色く光ったりと非常に親切。難易度は下がってしまうけど、ぼんやりな私にはちょうど良い感じ。イージー使ってもめちゃくちゃ悪戦苦闘してましたから。ノーマルだったらどれだけ駄目だったことか…。
■舞台はルロイの分家筋であるシェードレ男爵の別邸。湖の孤島に立つ館。交通手段はクルーザーだけ。…ええもう和も3度目なので、そこらへんはバリバリ警戒しています。悪魔に関する伝承なんか聞いて「また悪魔!」と泣き崩れますが、アルの頼みなので帰りたいのを我慢して別館へ。でも3度目。もうベテラン。謎の書付見つけて「何このルロイが好きそうな暗号っぽい詩」とか「だってこれ解かないと館が崩れるから」とか半泣きながらもさっさとと臨戦態勢。もはや『館VS名探偵』はシリーズ名物(笑)。 ■前作との違いが色々あるけど、まずは『雰囲気の違い』について。私がまだ手探りプレイ中に強く感じたのは、『今回は紛れもなく人間の仕業』ということ。前作は根底にある悪魔の伝承のせいもあって、動機も意図も見えない何とも言えない不気味さが漂っていた。人間らしい目的も意志もないような不可解な事件。そして登場人物のほとんどは日織の知り合いで身元は確か。人物像もそんな不気味さとは無縁の気のいい人達ばかり。誰をどう疑えばいいのか皆目見当もつかず。しかし今回は違う!
■登場人物は本家執事のエリノアを除いて全員初対面。背後には男爵家の相続問題。起きる事件はどれも即物的な人間の意志が見え隠れする。前作と違ってそこかしこに『人間臭さ』がすごく感じられ、雰囲気をガラッと変えてきたのが新鮮で面白かった。しかし怖さがないという訳では全然無い。誰のこともよく知らない為、誰がどんなことをしても不思議は無い。前作は「この中に犯人が?ホントに?えーイマイチ信じられないんだけど…」だったのが、今作は「この中に確実に犯人がいる!」という恐怖感が確かにあった。 ■さて!いつも初回は華麗にゲームオーバーな私ですが、今回はというとACHIMルートのバッドEND(時間切れENDとも言う)でした。でもゲームオーバーではない!褒めてください!…まあその後のプレイで2回続けてゲームオーバーでしたけどね。フラグが足りなかったらしい。それから攻略サイトのお世話になりつつ、3つのルートのグッドとバッドを両方見てから真相ルート、おまけルート、ノベル、と大体は見れました。そしてセーブデータ使ってキーワード会話色々と。ふー今回も堪能した!
■ストーリーについて。シェードレ男爵家にも一応ルロイらしくおどろおどろしい伝承があるんだけど、一番の現実問題としてあるのは『相続問題』。当主デリアに血縁者がいなかったため、遠い親戚を何とか掻き集めたところに事件発生。今回は何となく推理の方向性が絞れるので、ヘタレな私にもクリア出来るかも!?と思ったのですが、キーワードの聞き込みを相当無駄なくこなさないと駄目っぽかった。でも何回かやれば出来そう!前作の五里霧中さは無いと言えるかもしれません。しかしただの相続目当ての事件かと言うとそうでもなく…。 ■様々な思惑が複雑に絡み合い、最終的には(半年も前の事件)を推理する事に。そしてこれは真相ルートに限ったことで、他のルートではまた違う事件を推理しなければならないのです。そう、これが今作最大の特徴。真相ルート以外の3つのルートでは、真相に近づく前に別の事件が起こってしまい、それを解決しなければならない!しかも3ルートそれぞれ犯人が違い、グッドでは未然に防ぎ、バッドでは後から推理するという6種類の展開があるのです。いやーこれは相当楽しめた!結構なボリュームでした。 ■今回の暗号は、前作が難しくて複雑だった反動なのかかなりシンプルなものに。私にも解けたよ!ちゃんと(地下室入れた)!そして毎回和を苦しめていた地下迷宮は(今回無かったよ!やったぜルロイの呪縛を断ち切った〜!と思ったんだけど…よく考えたらあの人形はあったんだよな…。何…手加減された…?ルロイの余裕?いや、無いに越した事ないんだけどさ…。)しかし聞き込みが時間足りなくて、必要なフラグを立てるのが結構ギリギリ。そうだ、これも前作と違う。ゲーム内の時間(日にち)が少ない。容疑者の人数は減ったのに日にちも減ったから、急がないとゲームオーバーより恐ろしいバッドENDが…。
■バッドじゃない展開だと、今回の和はわりと落ち着いてそんなに切羽詰ることもなく捜査できたと思う。前回はなんだか悲愴感が漂っていたからなあ。この違いは何故かと言うと…。→
■→(今回は日織が失踪しなかったから!やはりこれが大きいのではないかと。いやー、やっと助手らしく手伝ってくれましたよ。こいつ最初から助手とか自分で言っときながら、1作目は初対面なので容疑者から外せず、2作目は失踪、3作目でようやく!この人が泰然としていると(和の推理力を信頼しているが故なんだけど)和もつられて安定しているような気がします。…なんて言ってると次回作で選択によって死んじゃったりするかな!(笑) ■真相ルートの感想。このシリーズって、ほんとに何というか…切なくさせるのが上手いよね…。犯人を憎めない。悪い人が誰もいない。なのにこんなことになってしまう。欲しかったのは些細なものだったのに。今回も切なかったよーーー!望んだものが相続だけだったら、ここまでにはならなかったのに。もう一つ望んでしまった。はっきり言ってただの思い込みで、まったく冷静ではなかった。でも逃げ道を探して探してとうとうそこへ辿り着いてしまったんだろう。 ■(あと背景が綺麗。夜の湖、真冬の霧、月、期待を裏切った色。余計に切なくなる(泣)。この辺についてはあるルートのバッドENDを見ると更に深くなること必至。
で、四コマにある「絶対泣かない」はどうだったかと言うと、(そもそもの発端であるあの人が登場!わーい待ってたよー、と思ったらここで泣くかお前!最終日まで泣かなかったのに、犯人説得だって強気で頑張ったのに、他ルートのバッドでも何とか涙堪えたのに!惜しかった、あと一息でした(笑)。事件中そんなに泣きそうな事はなかったんだけど(バッドは除く)、やっぱりずっと気を張ってたんだなあ。そして今回の館は崩れることなくエンディングへ。他ルートで爆発するけど、あれは人為的だし。うん、穏やかな館で良かった(笑)。)。
■他の3つのルートには登場人物3人の名前が付いています。前作にも各キャラの名前が付いたルートがあったんだけど、今作はその『意味合い』が違っていた…!前作のように(各キャラが和と一緒に事件捜査してくれるのかなあと思っていたのに、一つ目のルートをやって驚愕。)そんなんじゃなかった…!しかし各ルートのバッドENDはやはり見もの。殺人が起きてしまった後の捜査や推理で名探偵の本領発揮です。ごめんね和。各ルートの感想は別ページで。 ■キャラクターについて。今回も良い人達だった。ドプナーも嫌いじゃないよ!なんか憎めない、斑井さん的なキャラ。それにドプナーは前作のキーワード会話で結構聞き込んでたので、まったく予想通りの人となり(笑)。他のキャラについて詳しくはまた人物紹介で暑苦しく語ります。一番好きなキャラは…前作と同じ(笑)。あと前作のあの人について少し会話で聞けたりすると嬉しいやら切ないやら。真相グッドENDのイラストで「!!!!」ってなった。 ■総括。今作はわりと全体的にとっつきやすいのではないかと思います。もちろん前作の不気味さや(変化球)も大好きなんだけど!今作はルロイお決まりの伝承を絡めつつもそればかりではなく、生きている人間の思惑や欲や感情が複雑に絡み合った話だった。それを様々な会話の中から読み解いていくこのシリーズの推理システムはやっぱり面白い。和のぼやっとしているようで鋭い観察眼も、「放っておくともっと怖いことになるから」という推理の原動力も好き(笑)。キーワード会話でキャラクターを創り込む丁寧さもこのゲームの長所。さて、次回作はあるのでしょうか。もっともっとこのシリーズをプレイしたいです。和は「もう海外はやめる」と言っていたけど、ルロイが絡まないと最早淋しいような物足りないような…(笑)。
■好きなシーンや会話。今回もキーワード会話が面白かったー!シリーズの醍醐味ですね。まず序盤、和が別館の伝承を聞いて「また悪魔…!」とわなわなするシーン。さすが3作目。そして謎の書付を発見し、エリノアに「酷くうんざりされているような…」と言われ「(うんざりしているんです…)」と心の中で愚痴る。なんかもうルロイとは長い付き合いになってるな(笑)。あとはやっぱり…終盤の犯人の告白。(たどたどしい言葉で語られたせいか、なんだかすごく印象に残った。 ■各キャラの好きなセリフ。(アデーレ=「ここで白状しなければ部屋に監禁した上に拷問ですわよ!」お嬢様…まあ元々強気な子なんだけど、それにしたって過激(笑)。
ディルク=「…よい一日を」英語が不得手だから、本で勉強した会話文そのまんまに『have a nice day』とか言ってるんだろうけど、それでもなんかほのぼのする。
エリノア=「失礼致しました。私、何も言いませんでした。」たとえ優秀な執事でも、心の中では…セイウチとか爬虫類とかね…(笑)。
■(日織と和=「まあ、あんただけ担いで逃げるならなんとかなりますから、そこは安心しといてください。」「他の人はっ!?」日織…。スパッと割り切ってますなあ。まあ助手としては当然なのか。
「もう海外はやめるよ。」「…最初の事件は思いっきり国内でしたが。」あ、お前、それを言っちゃあ…。
日織=「アンタ、いつだって最初から覚悟決めてたじゃねえですかい。」確かに和って怖がり泣き虫なのに、なぜか自分で何とかしようとする行動力は人一倍なんだよなあ。
和=「今だってそうだよ。最悪の状態になるのが怖いから犯人捜さずにいられない。」怖さを撥ね退けようとする強さがある。「あの人も、アルの命令だったら何だって従う人だった。本当に、なんだって。」前作やってるとこの台詞にウウッとくる(泣)。



人物紹介、各ルート感想は随時追加。

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